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20話 家出少年

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-08-06 21:26:30

「あっすみま……」

「アンタどこ見てんのよ!!」

 わたしより一回り小さいその子は、子犬が威嚇し吠えるようにこちらを睨み声を荒げる。

「あっ、ご、ごめんね? 痛く……なかった?」

 相手は子供だ。わたしは怒りなど湧かず彼女を宥める。

「そんなデカいケツでノロノロ歩きやがって……」

「デカっ……!? ちょっとあんたねぇ……!!」

 子供相手とはいえお尻を指差され、羞恥心を刺激され顔を赤くしてしまう。

「あの……シュリンさん?」

 つい口論に発展してしまい、数十秒後心配したロンドさんが様子を見にくる。

「誰だアンタ?」

「ごめんねお嬢さん。僕の連れが何かしてしまったかな?」

「別に……」

 彼女はもう既に食事や会計を済ませていたのか、そっぽを向き店外に出ていってしまう。

(もぅ……なんだったの……? 失礼な子……)

 子供相手に本気になるのは大人気ないし格好悪いが、心の中で悪態をつくくらいは許されても良いだろう。

「あの……シュリンさん。その、気にしないでくださいね?」

「へっ……? あっ……」

 ロンドさんが気まずそうにこちらを気にかけ、最初は何のことを言っているか分からなかったものの、数秒考えればそれが分かりわたしは恥ずかしさと怒りで顔が段々と紅潮していく。

「ち、違いますから! あの子が適当なこと言ってただけですからね!!」

 わたしは必死になって否定し、ズボンの裾を掴むようにしてお尻の輪郭を隠す。

(うぅ……何でお手洗いに行くだけでこんな目に……!!)

 少々トラブルはあったものの、その後わたし達は特に何もなく食事を終え、件の商人のお屋敷に着く。

「はぁはぁ……結構歩きましたね」

「ここの家は代々隣町との貿易で利益を上げていて、うちにも当主がたまに来ていたので被害者とは軽く面識がありましたが……まさか辻斬りに……」

「許せませんよね……」

 今からこの屋敷に入り事情を説明し色々調べさせてもらう。今朝からやることは分かってはいたがどうしても気が重い。

 殺人事件の調査なんて今回が初めてではない。過去に数度そういう場に立ち合わせたことはある。

(やっぱりちょっとナーバスになっちゃってるのかな……って、ダメダメ! 調査する時は余計なことを考えないようにしないと……!!)

 気持ちを切り替え、どんな些細な手がかりでも掴むべく屋敷に踏み込む。調べに来ていた衛兵さんにはロ
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    「ん……ふわぁぁぁ」 わたしはベッドから起き上がり辺りを見渡す。(あっ、そうか……確か昨日ロンドさんのお屋敷に来て、辻斬りを見つけるか事務所がまた使えるようになるまで住まわせてもらうことになったんだった……) 寝ぼけた意識を覚醒させ、昨日の記憶と照らし合わせて情報を整理する。数十秒もあれば眠気も取れて目も覚める。「シュリンさん……?」 扉の向こうから数回のノック音と共にロンドさんの声が聞こえてくる。時刻は如何程か分からないが、わたしを起こしに来てくれたのだろう。「はい起きてます!!」 わたしはささっと髪を整え扉を開ける。「どうしたんですかロンドさん? そんな神妙そうな顔……?」 扉の先に居た彼の表情はなんとも言えないものだった。焦りや困惑があり目を泳がせるものの、同時にどこか安堵した様子で口元が緩む。「どうしたもこうしたも……昨日の夜どこに行ってたんですか? 探したんですよ?」「えっ……? 何の話ですか?」 記憶を辿れば、わたしはロンドさんが部屋から出てった後ベッドに飛び込んで眠ったはずだ。それ以降の記憶は先程起きた時まで途切れている。つまりはずっと寝ていた。どこかに行ってしまうことなんてありえない。「昨日の深夜、失礼かもしれませんが心配になりメイドに様子を見に行かせたんですよ。チラリと覗いて様子を見てくれって」「それで部屋にわたしが居なかったってことですか?」「そうなんです。それで色々と探して……数時間後気づいたら部屋に戻ってたという感じです。起こすのも悪かったので、朝まで待って来たんですが……何があったんですか?」「そ、そうは言われても……わたしは寝てただけですし……」 考えられる可能性を頭の中に数個生み出す。 夢遊病のように寝ながら動いてしまった可能性、寝相が悪くベッドの下などに入り込んでしまった可能性。しかしどれだけ可能性を模索しようが結局はもう終わったことで証明のしようがない。「とにかく何もなさそうで良かったですよ。もしかしたら一人で捜査に行く気だったかも……と思いましたから」「そ、そんな無鉄砲なことしませんよ!!」 結局真相は分からなかったが、身体に異常はないし捜査にも支障はないのでメイドさんに一言謝ってから予定通り捜査を始める。「ロンド、それにシュリンさん」 軽く朝食を済まし屋敷を出ようとしたところリント

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